鍋の季節〜1
寒さがみに染みてくると、我が家の鍋を思い出す。
ただ、私が思い出される鍋への思いは、鍋で温まりたいとか、
幸福な家族団欒ではない。
もちろん、冬場になると一般家庭並に鍋の回数は増えるのだが。
父が大の鍋奉行なのである。
会社の出張で行った先々のご当地鍋を自宅で再現したがる。
北は北海道の石狩鍋、きりたんぽ鍋、はたはた鍋、牡蠣の土手鍋、ハリハリ鍋…
もちろん、すき焼きや水炊き、湯豆腐も含め、外での味を家庭で再現しなくてはならない。
父は得意げに母を連れ立って、玉川高島屋のショッピングセンターへ
材料の買い出しへ向かう。
帰宅後の母は父の記憶の中にしかない、御当地鍋を再現するために、
あれやこれやと調べて、材料の仕込みに追われる。
しかし、もっと大変なことがある。
兄が、大の鍋嫌いであることだ。一つの鍋をみんなでつついて食べるのが
苦手なのだ。その上、父が食事の前後、あれやこれやとかなりうるさい。
材料の切り方だの、味付けだのこれが違うとか、
これはこうとうんちくをふまえ、旨いだろ、旨いだろと
“美味しい”という言葉を、強要するのだ。
もともと声の大きい父は、普通に話しているだけで怒鳴っているようなのに、
鍋の時のそのせわしなさといったら。
ほとんどの場合、途中で兄が切れる。父も不機嫌になる。
最終的に食事中に兄が部屋にこもってしまうことが多い。
私と母はO型故に、この二人の仲裁に入ろうと四苦八苦して、
心身共に消耗してしまう。
鍋に関して思い出されることは、父のニヤニヤした得意げな表情と、
兄の不機嫌な表情。面倒くさくて、あきれた母の顔。
そんな風に思い出される光景は、けっして穏やかではないのだが、
何故か実家での鍋が恋しくなる。
何故だろう。
きっと、その混乱の中にも、風間家なりの家族の団欒が含まれているのであろうか。
投稿者 ACCO☆ : December 5, 2004 07:13 AM