December 05, 2004

鍋の季節〜1

寒さがみに染みてくると、我が家の鍋を思い出す。
ただ、私が思い出される鍋への思いは、鍋で温まりたいとか、
幸福な家族団欒ではない。

もちろん、冬場になると一般家庭並に鍋の回数は増えるのだが。
父が大の鍋奉行なのである。
会社の出張で行った先々のご当地鍋を自宅で再現したがる。
北は北海道の石狩鍋、きりたんぽ鍋、はたはた鍋、牡蠣の土手鍋、ハリハリ鍋…
もちろん、すき焼きや水炊き、湯豆腐も含め、外での味を家庭で再現しなくてはならない。

父は得意げに母を連れ立って、玉川高島屋のショッピングセンターへ
材料の買い出しへ向かう。
帰宅後の母は父の記憶の中にしかない、御当地鍋を再現するために、
あれやこれやと調べて、材料の仕込みに追われる。

しかし、もっと大変なことがある。
兄が、大の鍋嫌いであることだ。一つの鍋をみんなでつついて食べるのが
苦手なのだ。その上、父が食事の前後、あれやこれやとかなりうるさい。
材料の切り方だの、味付けだのこれが違うとか、
これはこうとうんちくをふまえ、旨いだろ、旨いだろと
“美味しい”という言葉を、強要するのだ。
もともと声の大きい父は、普通に話しているだけで怒鳴っているようなのに、
鍋の時のそのせわしなさといったら。

ほとんどの場合、途中で兄が切れる。父も不機嫌になる。
最終的に食事中に兄が部屋にこもってしまうことが多い。

私と母はO型故に、この二人の仲裁に入ろうと四苦八苦して、
心身共に消耗してしまう。

鍋に関して思い出されることは、父のニヤニヤした得意げな表情と、
兄の不機嫌な表情。面倒くさくて、あきれた母の顔。
そんな風に思い出される光景は、けっして穏やかではないのだが、
何故か実家での鍋が恋しくなる。

何故だろう。

きっと、その混乱の中にも、風間家なりの家族の団欒が含まれているのであろうか。

投稿者 ACCO☆ : December 5, 2004 07:13 AM