December 18, 2004

鍋の季節〜2

鍋で思い出に残ることがある。

気難しい祖父の食事は隠居生活のリズムを整える為に、時間厳守であった。
朝ー8時、昼ー13時。
おやつを食べ続けようやく夕飯7時。

その日は母の仕事が長引いてやや遅れ気味であった。
夕飯は祖父のみ祖父の大好物、“すき焼き”。
急げば急ぐほど、要領の悪い母がどたばた支度をしていた。
子供たちは帰りがバラバラなので別メニューが常で、
たまたま、早く帰宅した私は、ちょっと羨ましく思いながら、
傍らで手伝い、ホットプレートの鍋に材料を並べていた。
そのとき突然、視界から鍋が消えた。

えっ、と思った瞬間、次に見たのはひっくり返った鍋と、
コードに足を引っかけて、失態をおかした母の表情。

私は祖父の怒りの恐ろしさを思い、どうすべきか言葉を失った。
どうしよう、どうしよう、とオロオロする母。
二階で、すき焼きを楽しみに待つ祖父。

一瞬の動揺の後、母が突然、床にぶちまけた肉や野菜を、再び鍋に並べだしたのだ。
さすがの私もその行動に驚き、
「どうするの、それ?」とおそるおそる尋ねた。
一番聞きたくない答えが母の口から発せられた。
「上の方なら大丈夫よ。」と。
半分自分に言い聞かせるように。。。
母の決意は固く思え、否定することもできなかった。

あの日、美味しそうにすき焼きをほおばる祖父の顔を一生忘れない。

今は亡き、祖父に贈る言葉『知らぬが仏』

投稿者 ACCO☆ : December 18, 2004 02:14 AM